『型』について考えてみる


先日のプライベートレッスン中に、プレイヤーの方と面白い会話になりました。そのプレイヤーの方は50代の男性の方で、YouTubeで見つけたアメリカのステップを真似して試してみたい、というリクエストでした。ウオーキングステップというそのステップは、文字通り歩きながらボールを打つステップであり、なめらかに踏み込んで体重移動が行いやすいステップでした。実際、その方の苦手だったフォアハンドストロークは、ずいぶん改善されました。
そして、最後にラリーで確認しましょうとラリーに入ろうとした時に、その男性の方が笑ながらこう言いました。『YouTubeの映像では、球出し練習の時は、ウオーキングステップで打っているが、おさらいのラリーになると、オープンスタンスでバシバシ打ちこんでるんです。』球出し練習では、ウオーキングステップなのに、ラリーになるとオープンスタンスで打つ。確かに、真面目な日本人ほど不思議に感じるでしょう。ラリーになってもウオーキングステップで打たないと、今日の練習の意味がない。その時、私はその方に対して、『ウオーキングステップは動きながら踏みこむので実践向きではない。ウオーキングステップで得た後ろ足を伸ばしながらボールを打つ感覚を、オープンスタンスに応用しているんです。』と説明しました。
なぜそのように説明出来たかというと、以前に同じような体験をしたことがあったからです。留学先のバルセロナにもスペインドリルというパターン練習があり、何種類かのステップを覚えさせられますが、実践では型にはめすぎずにその機能だけをうまく取り入れて、みんな使っていました。でもこの男性のように感じる方って日本には多いと思います。真面目に考えるので、最後まで型にはまってないと不安になると思うのです。
例えば、ネットプレイを指導する時にも『ボールがどっちにくるか読めない』というプレイヤーがいます。まだネットプレイを始めたばかりなのにです。どこに打ったら、どこに返ってくるなんて言葉で説明できるものではありません。『ネットプレイは抜かれて覚えろ!』とよく言われました。相手の持っているショットと自分の持っているショットとの兼ね合い、その時のシチュエーション、色々な要素が混ざってコースを読みます。
日本語には細かい表現が多い為か、テニスの指導も様々な角度から様々な言葉を使ってなされます。しかし、今回の例などでは、細かい説明は不要であるというか、してはならないのではないかと思うのです。ウォーキングステップで培った、体の使い方を無意識に使用出来ないようでは、ウォーキングステップは『型』として存在する意味がないと思うのです。ネットに出てポイントを取る行為も、そのプレイヤーの能力を最大限に生かして行なわれるべきもの。
『型』としては、せめてスプリットステップがあれば、十分ではないかと思います。私個人の意見としては、スプリットステップの指導も必要ないのではないかと思うくらいです。人為的に教えると、目的が異なってしまうからです。教えられたから、教えられたタイミングで行うのがスプリットステップではありません。相手のボールになんとか反応しようとする為の準備が、スプリットステップであるべきです。
私の趣味はサッカー観戦ですが、最近サッカーにも技術本が出ていて、メッシやクリスティアーノ・ロナウドのフェイントが連続写真で掲載されているのですが、なんか悲しいのです。せめて映像で見て真似して欲しい。メッシは相手を抜く時に、頭で考えるというよりは感覚に頼って抜いているはず。メッシのフェイントの連続写真は決し『型』ではないと思います。
『型』とは、基本の運動伝達経路を学んだり、反復練習で習得する為のもであり、完全に模倣してしまうものではないと思います。もし、『型』をうまく利用し、応用する過程に各プレイヤーの個性やセンスが現れるとするならば、(私はそう信じている)『型』の応用の仕方は説明する必要はないし、またなぜ説明が必要ないかを説明してもいけないことになる。才能やセンスが培われる機会を奪ってはならない。
『型』にはめ込みすぎることは、『才能』を封じ込めることになりかねない。努力至上主義は教育面では、プラスになると思うけれど(最近それも疑問に思うが。。)、才能を押さえつけることとは違う。テニスは単なる『ゲーム』だと思います。『ゲーム』において人よりも秀でている才能があったとしても何の問題もないはず。そして、その秀でている部分を伸ばせるようにする為に、『型』は存在するはずです。テニスは日本において、育成システムや指導システムが確立されていないので、『型』の存在理由をしっかりと考える必要があると思う。誰にも良い所はあるのだから。。。

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