ブレない大木
ブレないというのはなかなかに困難なことです。
行動が、心が、みんな色んなことに左右されてしまう。自分の中に強い芯があり、それに自信を持っているほど意外とブレたりする。強い芯によって、ブレないように勤めていることと本当にブレないことは違う。ブレないとうことは結果なのだ。結果としてブレていない。これが重要。ブレないようにかっこつけることとは一線を画する。そういう本当の意味でブレない人というのは少ない。
そんな人の近くにいるとたくさんのことを学ぶことができる。ブレない人は、チャンスをくれる。力のない人にも、力をつけるチャンスをくれる。ブレない人は査定をしない。結果がでるスピードは人それぞれであるし、咲かせる花も人それぞれであることを知っている。ブレない人は、小事はほったらかす、見えていても見えないふりをする。しかし、大事は決断する。ブレない人は独自の『理』を持っている。それは、理論武装のみではなく、『情』による直感的判断も加味された『理』である。ブレない人は、『安心』を与える。雨が降った時、そこで雨宿りする人を拒まない。
僕は19歳の時、偶然そのブレない人に出会った。毎日、江坂のコートで練習するへたっぴな僕をジュニアの練習に混ぜてくれた。ブレない人は僕にチャンスをくれた。ジュニア育成経験のない僕に、育成コーチの機会を与えてくれた。その中には、のちに大きく羽ばたく中村藍子選手もいた。普通では考えられない。『お前はよく練習してるから、それをそのまま伝えればいい。それは間違ってないから』そう言われただけだった。ブレない人は、僕のわがままを聞いてくれた。ある日、勝手にバルセロナ行きを決め、『辞めます。でも1年後に戻ってきます』と自己中心的な提案をした僕に対して、『なんとかするからええよ』とあっさり言ってくれた。ブレない人は決断した。ある日、アメリカで苦しむ奈良くるみ選手を、鶴の一声で日本に連れも戻した。(この鶴の一声がみんな出せない。。。)その後の奈良くるみは、みなさんご存知の通りの活躍だ。
そのブレない人の中にはいつも一つの文字がある。『育』だ。『そだてる』とか『はぐくむ』だ。僕は育てていただいた。教えていただいたのではなく、育てていただいた。そこには、強要とか、押し付けとかはない。目標も利益も計算しない。伸びようとする芽を、伸びたいように伸ばしてくれた。いつのまにか、若者は『査定』されることが当たり前の世の中になった。それは『育』ではなく、『従』だ。『従』とは、人から様々なチャンスを奪う。。。考えること、責任を取ること、怒ること。。。僕たちの世代は、社会に出たのちに『育』に触れられ、年齢を積み重ねられた最後の世代なのかもしれない。。。
そんなブレない大木が、僕達の職場からいなくなる。みなさんの回りにも、そんなブレない大木的な存在はいると思う。経済が成長しなければ、人は荒んでいく。自分達と同じ危機感をもたない人には、一線を画するようになる。ブレない大木はその線の外側に立っているのではない。内側の中心に立って根を生やしているのに。。。知らないうちに、ブレる人達が移動しただけかもしれないのに。。。
哲学に構造主義という考え方があります。(僕も深いところまでは知らないけど)文化人類学者のレヴィ=ストロースさんの創った考え方です。社会には、人間の無意識の見えない何かに動かされて、目に見えない構造があるという考え方。僕はこの考え方好きだし、そう思います。
今現在、『育』は受け入れられない構造になってしまったのかもしれない。でも人間には、そういう構造になってしまっていることに気がつける能力があります。気がついて行動できます。僕は、まだまだ育っていきたい。そして、僕より若い世代にも育ってもらいたい。
「億劫相別而須臾不離 盡日相対而刹那不対」
『永遠といって良い程の長時間別れていながら、ほんのわずかな間も離れていない。
しかも一日中向かいあっておりながら一刹那も向かいあっていない。』という意味です。
ブレない大木は日本中から消えるわけではありません。一日中向かい合っていても、一瞬も向かい合ってないような関係もあれば、長い時間別れていても、わずかな間も離れていない関係もある。ブレない大木は、日本中にたくさん立っています。そもそも中途半端なきこりに切り倒せるものではないのだから。。。
僕の家に飾ってある、熱い書道家さんに書いてもらったものです。
「億劫相別而須臾不離 盡日相対而刹那不対」のキーになる四文字が書かれています。
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