バルセロナの恩師、アンヘルの言葉。


2010年のヒット商品第1位は『食べるラー油』に決定しました。とにかくネーミングが素晴らしいと思います。商品名を聞いただけでは、どんな食べ方をしたらいいのか想像もつきませんが、とにかく美味しそうですよね?
私達の脳味噌は優秀なクリエイター達によって、考えなくてもそれを美味しいと判断して購入してしまうところまで誘導されてしまいます。一言で言えば、脳に心地いい商品名なのでしょう。
ではこのお話はどうでしょう?
ラファエル・ナダルはもともと右手でフォアハンドストロークを打っていた右利きだったが、テニスにおいて有利だと言う考えから左利きにチェンジした。もちろんナダルが世界の舞台で活躍し出してから、ネットなどで広がった情報です。私はジュニアのお父さんから聞きました。これから、自分の子供にテニスをさせて上手くなってもらおうとする方には、大変脳に心地いい逸話なのではないでしょうか?

しかし、その逸話を聞いた3年後、ネットにナダルのコーチであるトニーのインタビューが載っていました。その記事にはこう書いてありました。幼少の頃はフォアバックとも両手打ちでした。ある時片手にしようとした時に左手の方が力が強そうだった為に、右手を離してフォアハンドストロークを左手1本で打つようにしました。もともとサッカーは左利きでプレーします。
当初の逸話を聞いて右利きの我が子を左利きに無理やりしていたら、このインタビューを聞いた時にいったいどう思うでしょう?
もう一つ。小学校の教師が授業中に、セクハラサイコロなるものを使って生徒を困らせていたことがニュースになりました。。昨今の教育事情に不安を抱いている人達には、なんとも脳に不愉快な情報です。
しかし後日Twitter上に新たな情報が載っていました。その先生はとても人気があるいい先生であり、生徒の保護者達は復帰を求める署名を集めているそうです。女子生徒や嫌がる男子には絶対にセクハラサイコロを使わなかったし、みんなを楽しませる為にご父兄にも了解済みで使用していたそうです。一部のモンスターペアレントが学校側に言う前に、直接マスコミに話を持って行って今回の自体になってしまったそうです。今度は逆に、本当はいい先生だったんだと脳に心地いい情報になります。
さて、ナダルの話もセクハラサイコロの話も情報の真偽のほどはわかりません。実際に本人に会って聞いてみないことには、細かいニュアンスまでは伝わってこないでしょう。いずれにせよ、スポーツの分野であれ教育の分野であれ、情報を鵜呑みにしてもいい時代はもう終わったといえるでしょう。
人間は情報の真偽を判断する時に、自らが今置かれている状況や、今までに経験したことなどを照らし合わせることくらいしかできません。今の時代は教師の犯罪のニュースが多いから、先の話は教師が悪いと判断するのか、最近は冤罪の報道が多いので、教師は悪くないと判断するかは自分自身しかいないのです。
少し話がそれてしまいました。本題に戻ると、テニスの上達には『アドバイス』が欠かせません。上の例から推測すると、脳に心地いいアドバイスだからと言って自分の上達を確約するものではなく、またその逆であるとも言い切れません。テニスのアドバイスはヒット商品ではありえません。たくさん売れればいいと言うものではなく、そのプレイヤーの上達に役に立たないといけません。
バルセロナ留学時代にアンヘルコーチ(グランドスラムチャンピオンを3人輩出、彼と組んでいる時にチャンピオンになった選手はサバティー二、ピアース、クズネツォバ)によく怒られました。「今、目の前にいるコーチの
言うことを聞きない」と。
僕がジムで軽くサーブandボレーの素振りを行った時のことです。サーブの素振りをして、ボレーの素振りをする前にスプリットステップをしました。すると、ストレッチをしていたアンヘルが

「なぜ今ボレーする前に止まったんだ?」

と尋ねてきました。彼はこう続けました。

「サーブとボレーの間に止まる動きは必要ない。そのまま止まらずにボールに走っていけ。」

僕はこう答えました。

「でもサンプラスは止まっているように見えるんですが。。」

このあと彼が口にした言葉が

「今、目の前にいるコーチの言うことを聞きなさい」

です。その後、笑ながらこう続きます。

「サンプラスは200キロオーバーのサーブがある、サーブを打って、フライドポテトを食べ、コーラを飲んでからボレーをする。」「私は君に最適なアドバイスをしたんだ。」

僕のサーブ力ではスプリットステップなんてしている場合ではないということです。

確かにコーチにはそのプレイヤーの最適なプレーがイメージできています。そのプレイヤーをレッスンしている時間が長ければ長いほど、プレイヤーの特徴(体つきや性格面まで)がよく見えているでしょう。それなのに頭ごなしに否定された僕の脳は心地よくなかったのです。思い返せば、バルセロナでのアドバイスはあまり心地いいものはありませんでした。とにかく基本の繰り返し、毎日毎日同じ練習で同じアドバイス。「ATP1点とるまで(世界ランキングを獲得するまでという意味です)新しいことは教えてくれないらしい。」という噂もありました。
今の時代、コーチからのアドバイスはたくさんある情報の中の1つにしかすぎません。そして、そのアドバイスは数ある情報のなかでは脳に心地いいものではないかもしれません。

『今、目の前にいるコーチの言うことを聞きなさい』

この言葉を聞いたのは、もう6年も前のことですが、今の情報過多時代にはより大切にしなければいけない宝物だと思います。ネットや本の情報みたいに真偽を確認する必要がないのですから。
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